低用量ピルとは
低用量ピルとは、予定しないあるいは望まない妊娠を回避することができるお薬です。
避妊と聞くとコンドームなどの避妊具が国内ではポピュラーな避妊方法ですが、避妊具の使用は男性に依存することが多いです。
低用量ピルは、女性が自らの意思で服用することができ、毎日欠かさず服用することで女性のからだを守ってくれます。
また低用量ピルの避妊率は非常に高く、コンドームと比較してみるとその確率は圧倒的です。
- 低用量ピル99%以上
- コンドーム約80%
低用量ピルは確実とまでは言いませんが、ほぼ100%に近い確率で妊娠を回避することができます。
しかしこれだけ高い避妊率があるにもかかわらず、国内では避妊を男性に任せっきりの女性は多いです。
というのも日本は世界的に見ても「ピル後進国」とされ、ピルに対して決して良いイメージを持っていません。
- 太る
- 副作用
- 癌(ガン)のリスク
- など
美意識が高く、体型を気にする方にとって”太る”ということは大きなデメリットになるはずです。
確かにピルを飲むと太るという副作用はありました。
しかしそれは低用量ピルではなく、古くからある中用量以上のピルに限ってのことです。
低用量ピルを用いた国内での臨床試験データによると、低用量ピルの服用による体重の変動は±2kgでした。
つまり低用量ピルを服用したからといって太るというのは、もはや過去の話といえるでしょう。
また、副作用が低用量ピルにまったくないかと言われれば、まったくないと言い切ることはできません。
しかしピルの副作用の強さは、中身に含まれる女性ホルモンの量にもよります。
- 卵胞ホルモン
- 黄体ホルモン
このうち、副作用に大きく関係しているのは「卵胞ホルモン」になります。
1960年代、アメリカで開発されたピルは当初、錠剤の中に含まれる卵胞ホルモン量は50μg(マイクログラム)以上となっていました。
これがいわゆる「高用量ピル」と呼ばれるものです。
そして50μgまで卵胞ホルモンを減らしたのが、「中用量ピル」になります。
ピルが誕生してから60年近くの時が経ちますが、ピルの歴史は”卵胞ホルモンを減らしていかに副作用を軽減するか”といっても過言ではありません。
そしてさらに研究が進み誕生したのが、卵胞ホルモン量を避妊効果を失わないギリギリまで減らした「低用量ピル」になります。
低用量ピルに含まれる卵胞ホルモン量は、20〜40μg(国内で認可されているのは30〜40μg)になり、中用量以上のピルに比べ副作用を大幅に軽減することができています。
多くの女性が「ピル=副作用」とマイナスイメージを抱いているかも知れませんが、どんなお薬にも多かれ少なかれ副作用は付き物です。
少なくとも低用量ピルは他のピルに比べて、副作用が少なくなっているのは確かなことです。
また、ガンのリスクを心配する方もいると思いますが、低用量ピルはむしろガンのリスクを低下させることがわかっています。
「子宮体ガン」や「卵巣ガン」のリスクは低下するとされ、健康面でも低用量ピルの服用にはメリットがあります。
ピルに対してマイナスなイメージがあるかも知れませんが、避妊以外にも低用量ピルには女性にとって嬉しい副効果もあります。
低用量ピルは避妊効果にくわえ、女性のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させてくれるお薬なんです。
ここからは、低用量ピルの種類やどんな効果があるのかなどについて詳しく解説し、これらから服用あるいは服用中の方の参考になればと思います。
低用量ピルの種類
低用量ピルに含まれている黄体ホルモンの種類によって、「○○世代」と分けることができます。
- ノルエチステロン → 1960年代に開発された最初の黄体ホルモンになり、第1世代になります。
- レボノルゲストレル → 第2世代になり、今でも処方されている「トリキュラー」などの低用量ピルに含まれる黄体ホルモンになります。
- デソゲストレルとゲストデン → 現在、低用量ピルの処方で一般的となっている「マーベロン」などに含まれる黄体ホルモンになり、第3世代と呼ばれます。
これら第1〜3世代の中で国内でも処方機会が多いのが、第2世代のトリキュラーと第3世代のマーベロンになります。
2つはどちらも同じ低用量ピルになりますが、「1錠あたりに含まれるホルモン量」が異なります。
- トリキュラー3相性
- マーベロン1相性
この「○相性」というのは、黄体ホルモン量の変化になります。
服用期間が変わることはなく、どちらも1ヶ月を28日(7日間は休薬期間)とした服用になります。
3相性は、黄体ホルモン量が3段階にわかれ、徐々に増えていきます。
一方で、1相性はどれを飲んでも黄体ホルモン量は一定になります。
3相性のメリット・デメリット
トリキュラーなど3相性の低用量ピルに言えるメリットは、女性のからだの自然なホルモン分泌に近づけるということです。
低用量ピルといっても、女性のからだの中のホルモンバランスを大きく変化させます。
そこで服用日数に応じてホルモン量が増えることで自然なホルモン分泌に近づけることができ、不正出血などの副作用症状を少なく抑えることができます。
また28日間の服用で中間で黄体ホルモン量が増えるのが「中間増量型」、後半で増えるのが「漸増型」となります。
- 中間増量型
- トリキュラー、アンジュ、ラベルフィーユ、オーソ777
- 漸増型
- シンフェーズT
一方、3相性のデメリットとして、1錠あたりに含まれるホルモン量が異なるのでシートに書かれた順番通りの服用が必要になります。
なので飲み間違えてしまうと、避妊効果を失うことや不正出血を起こしやすくなるなどのデメリットがあります。
1相性のメリット・デメリット
マーベロンなど1相性の低用量ピルのメリットは、飲み間違える心配が少ないということです。
服用する錠剤に含まれるホルモン量が一定なため、安定した避妊効果が得られます。
またホルモン量が変わらないことで、生理日の調整しやすいというメリットもあります。
1相性ピルには、「マーベロン」や「オーソM」があり、超低用量ピルとされる「ヤーズ」なども1相性ピルに含まれます。
1相性のデメリットとして、3相性にくらべ不正出血を起こしやすいことがあげられます。
飲み間違いを起こしにくいというメリットがありますが、不正出血などが気になり合わないと感じる女性は3相性に切り替えを検討することもできます。
低用量ピルの避妊効果
女性にとって嬉しいライフイベントとして、妊娠や出産があります。
ただ、中には望まない女性もいます。
その際に、適切な避妊方法として低用量ピルがあります。
女性が妊娠するためにからだの中で重要なはたらきをする女性ホルモンが、2つあります。
- エストロゲン(卵胞ホルモン)
- プロゲステロン(黄体ホルモン)
エストロゲンは卵胞の成長に関係している女性ホルモンになります。
脳内にある「視床下部」と呼ばれるところからシグナルが発せられ、段階を経て卵巣に届き、卵胞の成長がはじまります。
視床下部 → 脳下垂体 → 卵巣
卵巣で卵胞の成長がはじまり、ある一定まで成長するとエストロゲンの分泌がはじまります。
エストロゲンが脳にはたらきかけることによって、卵胞の成長をストップさせ「排卵」が起こります。
そして今度はプロゲステロンの分泌がはじまり、子宮内膜の増殖や維持など妊娠する環境を整えます。
この段階で妊娠が成立しなければ、子宮内膜が剥がれ生理(月経)が起こります。
低用量ピルは卵胞ホルモンと黄体ホルモンによって、「既に卵胞が成長した」と脳を勘違いさせることができます。
脳が勘違いを起こすことで、次の3つの作用を期待することができます。
- 排卵の抑制
- 子宮内膜の増殖を抑える
- 子宮頸管粘液の粘度を高める
排卵をストップさせることによって、精子と卵子が出会う機会を失わせることができます。
つまり受精卵となることができないので、妊娠は成立しなくなります。
“排卵をストップ”というと二度と排卵が起こらなくなると思うかも知れませんが、低用量ピルの服用をすれば再び排卵は起きるようになります。
「排卵の休息」と考えれば良いかも知れません。
また子宮内膜は、受精卵が母親とつながるために着床する場所になります。
子宮内膜が増殖しなくなることで、妊娠の準備が整っていない状態になります。
なので万一、受精卵となっても着床を防ぐことで妊娠を回避することができます。
そして子宮の入り口である子宮頸管の粘液の粘度が高まることによって、精子の侵入を防ぐ作用も期待することができます。
このように低用量ピルは、3つの作用で女性のからだを守ってくれます。
低用量ピルの副効果
低用量ピルは避妊の目的以外にも服用することができます。
そのどれもが女性の生活を向上させてくれるものになり、生活改善(ライフデザインドラッグ)としても役立てることができます。
主にどのようなことに有効なのか、ここでは簡単に解説します。
ニキビ治療
低用量ピルに含まれている卵胞ホルモンには、次のような作用があります。
- 皮脂分泌を抑える作用
- きめ細かい肌を保つ作用
そのため低用量ピルの服用によって、肌環境を整えニキビができづらい肌へと導いてくれます。
ただ低用量ピルならなんでも良いという訳ではなく、ニキビ治療に効果的なピルがあります。
それが「マーベロン」、「トリキュラー」、そして超低用量ピルである「ヤーズ」になります。
生理関連の治療
低用量ピルは、女性の毎月1回の生理トラブルを改善する効果も期待できます。
- 生理痛
- 生理時の出血量を軽減し、それに伴い貧血を改善
- 生理不順の改善
- PMS(月経前症候群・月経前緊張症)の緩和
- 生理日の変更
- など
女性ホルモンのバランスを整えるだけで、辛い生理痛などを改善することができます。
女性特有の病気の予防
卵巣や子宮の病気や乳ガンなどの関心は年々高まっており、定期的に受けている女性は多いはずです。
低用量ピルには、そういった女性特有の病気を予防する効果があることもわかっています。
- 卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)の予防
- 子宮外妊娠の予防
- 子宮体ガンの予防
- 卵巣ガンの予防
- 乳房良性疾患(乳ガンなど)の予防
特に卵巣は毎月の生理によって排卵を繰り返しますが、その時に卵巣は傷ついています。
排卵で傷ついた蓄積が、後に卵巣ガンの原因になるとも言われています。
低用量ピルの避妊効果によって排卵をストップさせることができるので、卵巣が傷つくのを防ぎ卵巣ガンの予防につながります。
実際にデータからは、低用量ピルの服用を続けた女性は卵巣ガンになりにくいこともわかっています。